2015/01/18

Ata Kak / Obaa Sima

Ata Kak / Obaa Sima
今年最も期待できるであろうリイシュー情報が早くもアナウンスされました。

僕が多いに信頼を寄せるリイシューレーベルの一つ、Awesome Tapes From Africa(ATFA)が2015年一発目にドロップするのは、ガーナのエレクトロニック・ミュージシャン、アタ・カックの1994年作『Obaa Sima』(当時はカセットリリースのみ)。

このブログでATFAの作品について書くのは初めてなので、まずは簡単にレーベルについて紹介します。

13年前、アメリカのカセットDJ、Brian Shimkovitz自らがアフリカの現地で集めまくったカセットをブログで紹介し始めたのがATFAの原点でした。
カセットの味が分かる人類唯一の男!

ちなみにブログの一番最初の記事がアタ・カックの『Obaa Sima』です。

レコードが廃れ、CDが本格的に普及するまでの間続いたアフリカのカセット期は、ダイレクトにCDへ移行した他国と違いあまりにも長く、そういった時代背景を含む音楽事情が、カセットオタクであるブライアンの心と情熱に火を着けました。
面白いカセットを見つけてはそれを紹介し続け、徐々に記事を増やしていったブログが、2010年には忘れ去られていたアフリカ音楽を現代に呼び起こす復刻レーベルATFAへと姿を変えたのです(あくまでブログというスタイルは今でも変わっていませんが)。

ちなみに僕は復刻第4弾のHailu Mergia & His Classical Instrument『Shemonmuanaye』まで完全に見落としてましたが、エル・スール・レコーズの協力もあって、今のところ全て揃えることができています。
Hailu Mergia & His Classical Instrument / Shemonmuanaye

先述の通り、『Obaa Sima』はブログの第一号記事として取り上げられ、リリースから21年の月日を経て復刻されます。

復刻までの道は長く、苦労の連続だったそうです。
2006年、ブライアンは『Obaa Sima』の制作者であるYaw Atta-Owusuという人物に会うことができたのですが、カセットの生産が50本のみだったうえ、制作者が所有していたマスターテープは風化で使い物にならず(復刻されるなんて思ってなかったのでしょう)、結局はブライアンが中古で買ったCDがソースとして使われました。
つまりATFAの原点であるこのカセットが、ブライアンの13年間を総括し、地産地消では終わらせないATFAの一旦の集大成と言える作品になることは確実です。

さて、この『Obaa Sima』全編に渡ってアフロビート的な打ち込みと、初期のエイフェックス・ツインを彷彿とさせるアンビエント・テクノで展開されており(所々で808ステイトばりのハウスが出てきたりもします)、現代でも通ずるであろう音構成と革新性に脱帽。
さらに、黒汁溢れんばかりの怒濤女声ラップ(聴き応え抜群!)とコーラスが絶妙に相まって、聴くものを確実にトランス状態へと誘ってくれます。
ガーナといえばハイライフと思われがちですが、当時の現地若者たちはマリファナ、ハーブよろしく、サウンドシステムでこういった音楽を発散させては踊り狂っていたのでしょう。

とあるお方の受け売りとしまして、レア・アフロ・シンセ・ポップ・ファンク(もうグチャグチャ)と例えさせていただきますが、さらにヒップホップ、アシッド・ハウスを加えてみても、案外その通りで面白いんじゃないでしょうか。

ATFAの復刻作品で個人的なお気に入りは、Aby Ngana Diop『Liital』なのですが、『Obaa Sima』はそういった観念も塗り替えるであろう素晴らしい作品です。
あくまで個人的な意見ですが。
Aby Ngana Diop / Liital
もちろん、こちらの作品もオススメです!

ちなみにYouTubeでは、さぞ熱心なリスナーが一年ほど前に『Obaa Sima』をフルアルバムで公開しています(しかもステレオリマスターで音もなかなか良い…)。
心中察してもらえると若干複雑な気持ちではありますが、その功績を讃え、ここにリンクを貼らせていただきます。

それにしてもATFA、ここで遂に大本命を繰り出したか!という状態ですが、今後の復刻ネタにも困らないほどの記事の多さには毎度閲覧の度に感心しておりまして、これからATFAの作品に触れるという方にも、ぜひとも注目していただきたいところですね。

P.S.
次回の復刻ではぜひともこの作品を!
FAC Alliance / Mariama
ギニアのヒップホップ・グループ、覆面ジャケにハズレ無し(常に覆面のMC、Mista X)!?
とはいっても、比較的最近のグループですが…。

2015/01/06

Christine & The Queens / Chaleur Humaine

HAPPY NEW YEAR!
新年あけましておめでとうございます!

2015年、皆様いかがお過ごしでしょうか。
今年も皆様が素敵な音楽に出会えることをお祈り申し上げます。

ということで、新年早々ディヴァインを見て「うわぁ…」と思った方もそうでもない方も、昨年はたくさん音楽を楽しみましたか?
一部の方々は年間ベストアルバムを作り終えて、また新しい音楽と出会える準備ができているのではないでしょうか。
僕も年間ベストアルバムを早めに作り終え、ディアンジェロとファンカデリックの新作を聴いたりしています。

ちなみに僕の2014年 年間ベストアルバムはこちら。
2014年 年間ベストアルバム 1位〜5位
2014年 年間ベストアルバム 6位〜10位
2014年 年間ベストアルバム 11位〜

Christine & The Queens / Chaleur Humaine
僕の2014年 年間ベストアルバムでは10位にランクインしました。

本名はエロイーズ・ルティシエ。
クイーンズとは名乗っていますが、基本お一人様です。
1988年にフランスのナントで生まれ、リヨンのエコール・ノルマル・シュペリウール(日本でいう東京大学?)で演劇を学んだ才女。

2011年にRemark RecordsからEPを発表した後、デビューアルバムが発表される2014年までの間フランスのフェスティヴァルで数々の賞を受賞したり、ストロマエの前座に抜擢されたりと、その才能は早くから注目されていました。

写真や映像を見ると、クリスティーヌは男装をしていたり、あまり女性らしい格好をしていません。
それは彼女がゲイ・カルチャーとある程度接近していることに関係しています。
クイーンズというステージ名は、彼女がロンドンのクラブでドラァグクイーンに囲まれて過ごしていたことからひらめき、ある雑誌のインタビューでは、ゲイ・カルチャーのイコンになることについて言及したりと、切っても切れないほど深い関わりを持っていることが分かります。
そのことを伝えたくて、新年のご挨拶にディヴァインをお見せしたわけです(ややこしい)。

音楽性はエレ・ポップですが、ヒップホップ的なストロマエとは違うアプローチであることが分かりますね。
幻想的でドリーミー、無機質かつ響きあるサウンドと、それに溶け合う彼女の美しい歌声には悲しさが含まれています。
ダンスはマイケル・ジャクソン+コンテンポラリー・ダンスといった感じでしょうか。
シンプルながらも、凝った作りになっていて素晴らしいです。

ライブも良さそうですね。

タイトルの『Chaleur Humaine』は、人のぬくもりという意味。
しかもそれは青春時代に置ける人のぬくもりのことで、彼女自身26歳という年齢になって見えた現実や今の己にある愛への渇望を満たすために、青春時代を追体験し再発見するという意思が歌詞に込められています。

自身のジャンルを「サッドコア」と公言したラナ・デル・レイと近いものを感じますが、悲しみの単位が違うせいかクリスティーヌのほうが割り方ポップに聴こえますね。

デビューアルバムでここまで洗練され、かつ表現できる新人というのもなかなかいませんし、フランスのポップスが再度面白くなってきた今、自信を持って注目できるアーティストの一人ということになります。